大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和60年(行ウ)154号 判決

原告 原田良夫

被告 三鷹市長 坂本貞雄

右訴訟代理人弁護士 堀家嘉郎

右訴訟復代理人弁護士 松崎勝

右指定代理人 長谷川純

〈ほか二名〉

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、昭和六〇年五月一日付けでした昭和六〇年度固定資産税及び都市計画税の各賦課決定処分のうち、固定資産税額一二万一三七〇円、都市計画税額二万八一四〇円を超える部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、原告所有の三鷹市大沢四丁目八七五番の二所在の山林・三五四平方メートル(以下「本件土地」という。)に係る昭和六〇年度固定資産税額を二〇万八〇九〇円、都市計画税額を四万〇八七〇円と賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)し、昭和六〇年五月一日付け納税通知書により右賦課決定を原告に通知したところ、右通知書は同月四日原告に到達した。

2  しかしながら、本件賦課決定には、次のような違法がある。

(一) 被告のした本件賦課決定には、賦課期日における本件土地の現況を誤認し、本件土地の価格を過大に評価した違法がある。

すなわち、本件土地に係る固定資産税の課税標準額は、昭和五一年度より別紙のような経過を経て昭和六〇年度に至ったものであるが、昭和六〇年度のそれは、前年の額に比し一・七二四倍となっている。これは、被告が本件土地を従前山林として課税していたものを、本件賦課決定の基準日である昭和六〇年一月一日現在の現況を雑種地と認定して課税したためにほかならない。しかし、原告が本件土地の立木を伐採したのは同年一月末であって、本件土地の基準日当時の現況は山林であったから、被告は本件土地の現況を誤認し、その評価を誤ったものというべきである。

(二) 被告は、後記のとおり、地方税法(以下「法」という。)四三二条によって固定資産課税台帳に登録された事項は本件賦課決定の違法事由として主張し得ない旨を主張するが、原告は、本件賦課決定は地方税法附則一八条一項によってなされるべきであると主張するのに対して、被告は、同条二項二号イによるべきであると主張し、その理由として原告は法律の解釈を誤っていると主張しているのである。

すなわち、本件争訟は地方税法附則の適用条件をめぐっての争いであり、その前提として、昭和六〇年一月一日(賦課期日)に地目の変換があったか否かが争点となっているものであり、原告は、固定資産税の課税台帳の登録事項を争っているものではない。

もっとも、仮に地目そのものが固定資産税の課税台帳の登録事項であったとしても、本件土地に関して原告の固定資産課税台帳には被告主張のように地目は「雑種地」として登録されておらず、地目は「山林」として登録されているものである。法三八一条は、固定資産課税台帳の記載事項として、土地課税台帳にあっては、「一、土地登記簿に登記されている土地については、不動産登記法第七八条の規定により登記する事項。二、所有権、質権及び百年より永い存続期間の定めのある地上権の登記名義人の住所及び氏名又は名称並びに当該土地の基準年度の価格又は比準価格を登録する」ことを規定しているのみであり、その余のことは規定していない。したがって、被告が固定資産課税台帳に地目を「山林」として登録したことは、租税法律主義の法理からして当然である。

しかして、法四三二条では固定資産課税台帳に登録された事項に対して不服がある場合は固定資産評価審査委員会に対して審査の申出ができる旨規定し、固定資産税の賦課についての不服申立には、固定資産評価審査委員会に対して審査の申出ができる事項については不服申立の理由とすることができないことは被告主張のとおりである。しかし、固定資産課税台帳に記載する地目は不動産登記法七八条によって登記する事項である。本件土地でいうならば登記地目は「山林」であり、被告の課税台帳上も「山林」と記載されているものである。したがって、「雑種地」とは課税台帳に記載されてない事項であるから、地方税法附則一八条一項を適用すべきか、同条二項二号イを適用すべきかについて争うことは、法上何等の制約もないし、その過程において、本件土地が昭和六〇年一月一日現在「山林」であったか、「雑種地」であったかについて争うことにも何等の制限がないものである。

(三) 被告は法四三二条で規定している固定資産課税台帳の登録事項を拡張解釈し、自己が課税上の便宜のために法律によらず、任意に記載した事項まで法四三二条の固定資産課税台帳の登録事項であると主張しているものである。

すなわち、固定資産課税台帳の登録事項は法三八一条によって定められているものであって、法四三二条一項はこの法三八一条で規定してある固定資産課税台帳の登録事項をさしているものと解さなければならないことは、他に固定資産課税台帳の登録事項について規定した条文のない以上当然のことである。ところで、法三八一条では固定資産課税台帳の登録事項として「土地登記簿に登記されている土地については不動産登記法第七八条の規定によって登記する事項、以下省略」を登録する旨規定しているのである。しかして不動産登記法七八条では、一、土地所在ノ郡、市、区、町、村及ビ字 二、地番 三、地目 四、地積 五、所有者ノ登記ナキ土地ニツイテハ所有者ノ氏名、住所若シクハ所有者ガ二名以上ナルトキハソノ持チ分 以上のごとく規定しているものである。仮に被告提出の乙第一号証が被告の固定資産課税台帳であったとしても、コード番号七三が雑種地を意味するから、「雑種地」が本件土地について、法三八一条で規定する固定資産課税台帳の「地目」ではない。雑種地は被告が課税の便宜のために参考的に記載したに過ぎないものであって、本件土地の法三八一条で規定している地目は乙第一号証のコード番号五一の「山林」である。このことは、本件訴訟前に被告が発行した「固定資産課税台帳の登録証明書」に地目山林として登録していることを証明していることからも首肯できるであろう。要するに、被告は、固定資産課税台帳の登録事項でない事実を持ち出して、この事項に対する不服は固定資産評価審査委員会に対する審査の申出によって解決すべきことであると強弁しているもので失当である。

以上述べたとおり、本件土地の固定資産課税台帳に登録された地目は「山林」であり、地方税法附則一八条によって最高でも昭和五九年分固定資産税額の一・三倍を越えて課税することは違法な課税処分であることは明白である。

(四) 法三八一条七項は、市町村長は、土地登記簿に登記されている地目その他登記されている事項が、事実と相違するため課税上支障があると認められる場合においては、当該土地の所在地を管轄する登記所にその登記されている事項の修正その他の措置をとるべきことを申し出ることができる旨を規定しており、当該登記所は、その申出を相当と認めるときは遅滞なくその申出に係る登記又は登記されている事項の修正その他の措置をとり、申出を相当でないと認めるときは、遅滞なく、その旨を市町村長に通知しなければならないと規定している。被告は本件土地の地目が山林から雑種地に変わったことを確認したのは昭和五九年一月一日撮影の航空写真によってその事実が判明したと主張するが、これが真実であるならば、本件訴訟の課税年度の賦課期日に丸一年間の期間があったことになるのであるから、法三八一条七項によって三鷹登記所にその地目の修正を求めることが、時間的に十分可能であり、かつ、そうすることが租税法律主義の法理から当然のことであるが、何故か被告はこれを行わず、固定資産課税台帳に参考的に記載した事実をもって課税手続の正当性を主張していることは、憲法で規定している租税法律主義を無視し、順法について、住民に範を示すべき自治体の長の取るべき姿ではなく、ただ訴訟に勝訴せんがための強弁にすぎない。

(五) 法四一七条一項は、市町村長は「登録された価格等に重大な錯誤があることを発見した場合は」直ちに修正してこれを固定資産課税台帳に登録しなければならない旨を規定するところ、右規定は、課税権者に自由裁量権を与えたものではなく、作為義務を課しているものと解すべきであるから、本件における山林か雑種地かという地目の相違は右の重大な錯誤に当たることは明らかであり、これを修正しないでした本件賦課決定は違法である。

なお、被告は、本件土地の立木が伐採されたのは昭和五八年であると主張するが、仮に、被告が本件土地の立木の伐採が昭和五八年であると確認しているのであれば、改正前の地方税法附則一八条二項四号によって昭和五九年度の固定資産税、都市計画税から地目を雑種地として課税すべきであるのに、それをしていないのは、前記主張と矛盾する。

3  原告は、被告に対し、昭和六〇年五月三一日付けで本件賦課決定につき異議申立てをしたが、被告は、同年七月二三日これを棄却する旨の決定を行い、右決定書謄本は同月二四日原告に到達した。

4  よって、原告は被告に対し、本件賦課決定の一部取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中、本件賦課決定に係る納税通知書が昭和六〇年五月四日原告に到達したことは不知。その余の事実は認める。

2  同2(一)の事実中、本件土地に係る固定資産税の課税標準額のうち昭和五九年度及び昭和六〇年度の額が原告主張の金額であること及び被告が本件土地を従前山林として課税していたものを昭和六〇年度の固定資産の評価にあたり、雑種地として評価することとしたことは認めるが、その余は不知ないし争う。同(二)ないし(五)はいずれも争う。

3  同3の事実は認める。

4  同4は争う。

三  被告の主張

1  被告が本件賦課決定をした根拠は、次のとおりである。

(一) 被告は、本件土地につき昭和六〇年度固定資産の評価にあたり、従前山林として評価していたものを雑種地として評価することとし、右評価額を一五九二万四六九〇円と決定し、これを法三八一条一項に基づき土地課税台帳に登録した。また、被告は、本件土地の地目の変換があったため、地方税法附則二八条一項に基づき本件土地の比準課税標準額を一三五一万三五九六円と決定し、これを土地課税台帳に登録した。そして、被告は、本件土地の上昇率が別紙計算書(1)記載のとおり一・一七八四であり、地方税法附則一八条一項に定める負担調整率が一・一となることから、別紙計算書(2)記載のとおり、前記比準課税標準額に一・一を乗じた一四八六万四九五五円を本件土地の課税標準額と決定した。また、都市計画税については、法七〇二条により固定資産税の課税標準額と同一の一四八六万四九五五円を課税標準額と決定した。

(二) 三鷹市における固定資産税の税率は、一〇〇〇分の一四であり、都市計画税のそれは一〇〇分の〇・二七五であるから、前記課税標準額に右税率を乗じて算出した(法二〇条の四の二第一項により課税標準額につき一〇〇〇円未満切捨て、また同条三項により税額については一〇円未満切捨て)本件土地の固定資産税額は二〇万八〇九〇円、都市計画税額は四万〇八七〇円となる。

2  原告の主張する本件土地の地目及び評価額は、固定資産課税台帳に登録された事項であるところ、原告は審査委員会に審査の申出をしていないから、その違法を被告の本件賦課決定についての不服の理由とすることができない。

すなわち、市町村長は、毎年三月一日から同二〇日までの間、固定資産課税台帳をその指定する場所において、関係者の縦覧に供しなければならない(法四一五条)。土地課税台帳には、法三八一条一項に規定する事項、すなわち土地について不動産登記法七八条の規定により登記する事項(土地の所在、地目、地積等)、所有権等の登記名義人の住所氏名、当該土地の評価額及び比準課税標準額等が登録される(法三四一条一〇号、三八一条一項、同法附則二八条一項)。土地課税台帳に登録された事項に不服がある場合には、納税義務者は縦覧期間の初日からその末日後一〇日までの間において文書をもって審査委員会に審査の申出をすることができ(法四三二条一項)、更に審査委員会の決定に不服があるときは、決定の取消しの訴えを提起することができる(法四三四条一項)。しかして、法四三二条一項の規定により、審査委員会に審査を申し出ることができる事項について不服がある納税者は、同項及び法四三四条の規定によることによってのみ争うことができる(同条二項)。

原告は、昭和六〇年度の土地課税台帳に記載されている本件土地の地目を雑種地としたこと及び価格(法三四九条一項により、土地に対する固定資産税の課税標準は、土地課税台帳に登載された価格である)が一四八六万四九五五円であることが違法であるとして、被告の本件賦課決定の取消しを求めるのである。しかしながら、原告は審査委員会に対する審査の申出をしていないのであるから、法四三二条三項の規定により、地目及び価格を賦課決定についての不服の理由として主張することができない。

3  次に、原告は、法四一七条一項の規定を挙げて、被告が土地課税台帳の縦覧後に登録された価格等に重大な錯誤があることを発見した場合においては、決定された価格等を修正して右台帳に登録しなければならないと主張するが、本件土地については右修正した価格等の登録がなされていないのであるから、右規定を根拠として、本件賦課決定の取消しを求めることは失当である。右規定は、市町村長の職権による修正を定めるものであって、納税義務者に対して、審査委員会に審査の申出がなかったために確定した価格等の修正を要求する権利を認めたものではない。

のみならず、次に述べるとおり、本件土地の地目及び価格は適法であって、法四一七条一項の要件を欠くものである。すなわち、本件土地の地目は、昭和五九年度までは山林(介在山林)として土地課税台帳に登載されていたが、昭和六〇年度から雑種地に地目が変更された。これは昭和五八年中に樹木が伐採されて、土地の地目が雑種地となったことによるものである。三鷹市は、毎年一月一日に市域の航空写真をとって、土地建物の状況の変化を調査しているが、昭和五九年一月一日撮影の航空写真によって、右事実が判明したので、固定資産評価の基準年度である昭和六〇年度に先き立って、担当職員が、同五九年一〇月から一二月までの間数回にわたり、現地に赴いて本件土地の現況調査を行ったところ、隣地との境界線附近に雑木数本を残して樹木が伐採され、一面に雑草が生い繁っていることが確認された。よって、昭和六〇年度の土地課税台帳には地目を雑種地とし、雑種地としての価格を登載したものである。本件賦課決定は、右価格をもとにして算出した額を課税標準としてなされたのであるから、何ら違法はない。

なお、原告は、そうであるならば、昭和五九年度に地目を雑種地とすべきであったというが、昭和六〇年度が基準年度にあたるため、被告は市内の土地の地目の変更があったものの地目を同年度から変更する方針をとっていたことによるものである。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1(一)及び(二)の事実は認める。

2  同2は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1の事実(但し、本件賦課決定に係る納税通知書の到達日付けを除く。)及び同3の事実並びに被告の主張1(一)及び(二)の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、本件賦課決定に原告主張の違法事由が存するか否かを判断する。

1  原告は、本件賦課決定には本件土地の現況を誤認したため本件土地の価格及び課税標準額を過大に決定した違法がある旨を主張するところ、まず、原告が右瑕疵を本訴において主張することができるか否かの点について検討する。

請求原因2(一)の事実中、昭和五九年度の本件土地に係る固定資産税の課税標準額が八五三万一四〇〇円であり、昭和六〇年度の右額が一四八六万四九五五円であること及び昭和六〇年度の課税標準額が前年度の額に比較して高額となったのは、被告が本件土地を従前山林と評価して課税していたものを昭和六〇年度の評価にあたり雑種地として評価したためであることは、当事者間に争いがない。右事実に前記当事者間に争いのない被告の主張1(一)の事実、《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められる。

被告は、三鷹市大沢四丁目八七五番二所在・地目山林・地積三五四平方メートルの本件土地に係る固定資産の評価にあたり、従前山林として評価していたが、昭和六〇年度の評価に際し、現況雑種地として評価することとし、右評価額を一五九二万四六九〇円と決定した。また、被告は、右のとおり本件土地の地目の変換があったため、地方税法附則二八条一項に基づき本件土地の比準課税標準額を一三五一万三五九六円と決定した。そして、被告は、本件土地評価額の上昇率が別紙計算書(1)記載のとおり一・一七八四であり、地方税法附則一八条一項に定める負担調整率が一・一となることから、別紙計算書(2)記載のとおり、前記比準課税標準額に一・一を乗じた一四八六万四九五五円を固定資産税の課税標準額と決定し、また、法七〇二条に基づき都市計画税の課税標準額を右固定資産税の課税標準額と同額と決定した。更に、被告は、三鷹市昭和六〇年度土地課税台帳上に本件土地の所在地「オオサワ四丁目八七五番二」、台帳地目「山林」、同地積「三五四平方メートル」、現況地目「雑種地」、評価額「一五九二万四六九〇円」、固定資産税課税標準額「一四八六万四九五五円」、都市計画税課税標準額「一四八六万四九五五円」等と登録し、これを法所定の期間、所定の場所に備え付け、関係者の縦覧に供した。ところが、原告は、右土地課税台帳に登録された事項につき法所定の審査申出期間内に固定資産評価審査委員会に審査の申出をしなかった。

なお、本件土地の昭和六〇年度固定資産税課税標準額は右地目の変換があったため、前年度の八五三万一四〇〇円に比較すると、その一・七二四倍となった。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

ところで、法によれば、市町村長は、固定資産評価員の作成した評価調書に基づき、自治大臣の定める固定資産評価基準によって、固定資産の価格等を毎年二月末日までに決定し(四〇三条、四一〇条)、直ちに当該固定資産の価格等を固定資産課税台帳に登録し(四一一条)、毎年三月一日から同月二〇日までの間、右台帳をその指定する場所において関係者の縦覧に供しなければならないものとされている(四一五条)。そして、固定資産税の納税者は、その納付すべき当該年度の固定資産税に関し、固定資産課税台帳に登録された事項(土地登記簿又は建物登記簿に登記された事項を除く。)について不服がある場合には、縦覧期間の初日からその末日後一〇日までの間において、文書をもって固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができ(四三二条一項)、更に、同委員会の決定に不服があるときは、その取消しの訴えを提起することができるが(四三四条一項)、その反面、右審査の申出をすることができる事項について不服がある納税者は、右審査の申出及び訴え提起の方法によってのみ争うことができ(四三四条二項)、固定資産税の賦課についての不服申立てにおいては、右事項を不服の理由にすることができないものとされている(四三二条三項)。これを本件についてみるに、原告は、本訴において、被告が本件土地の現況を雑種地と認定し、これを基礎として評価額及び課税標準額を決定したことを本件賦課処分の瑕疵として主張しているものと解されるところ、本件土地の現況地目及び価格並びに課税標準額がいずれも土地課税台帳に登録された事項であることは、前認定のとおりであるから、右事由は審査委員会に対する審査申出の対象となる事項というべきである(もっとも、法四三二条一項によれば、固定資産課税台帳に登録された事項のうち、土地登記簿に登記された事項については、審査の申出をすることができないこととされているが、右規定は、登記簿に登記された事項それ自体の訂正変更はこれを固定資産評価審査委員会に対して審査申出することができないという当然の事理を明らかにしたにすぎないものであって、土地登記簿に登記されている地目が実際の現況と異なるとして、登記された地目と異なる地目が土地課税台帳に現況地目として登録され、この現況地目を基礎として算出された固定資産の価格及び課税標準額について不服がある場合には、納税者は、現況地目の誤認及び固定資産の価格等について審査の申出をすることができるものと解すべきである。)。

そうすると、原告は、本訴において、被告が賦課期日における本件土地の現況を誤認し、右誤認に基づいて本件土地の価格及び課税標準額を決定したことを理由として本件賦課処分の取消しを求めることはできないものといわなければならない。

これに対し、原告は、本件土地に関し、固定資産課税台帳には地目が「山林」として登録されており、「雑種地」としては登録されていないから、現況地目の認定の誤りを本件賦課処分の違法事由として主張することには何ら制限がない旨を主張するが、しかし、本件土地の現況地目が昭和六〇年度土地課税台帳に登録されていることは、前認定のとおりであるから、原告の右主張は理由がない。

また、原告は、現況地目が法上の要求される登録事項ではないことを理由に、現況地目認定の誤りを本件賦課処分の違法事由として主張することは可能であると主張するが、しかしながら、課税庁は、固定資産税賦課のための土地の評価に際しては、登記簿上の地目にかかわりなく、その現況を基準とすべきものと解すべきであるから、当該土地の登記簿上の地目と現況地目とが異なっている場合には、法三八一条一項の規定する「不動産登記法第七八条の規定により登記する事項」の中に現況地目が含まれるものと解するのが相当である。したがって、土地の現況地目は法上登録すべき事項ではないとする原告の主張は、理由がない。

2  次に、原告は、当該土地の現況地目と土地登記簿に登録されている地目が異なるときは、法三八一条七項により登記所に地目の修正を求めたうえで賦課決定しなければならないところ、これをしないでした本件賦課決定は違法である旨を主張する。

しかしながら、法三八一条七項は、市町村長が、本来登記所が職権で調査すべき事項に関しても職権発動を促すことができることを注意的に規定したにすぎないものであって、市町村長に対し、職権発動を促すことを義務づけたものではないと解すべきであるから、被告が右規定に定められた措置を怠ったことをもって本件賦課処分の違法事由とすることはできない。したがって、原告の右主張は理由がない。

3  更に、原告は、被告が本件土地の現況を雑種地であると誤認したことは、法四一七条一項に規定する「重大な錯誤」に該当するから、同項により土地課税台帳を修正すべきものであり、これをしないでした本件賦課決定は違法である旨を主張する。

しかしながら、右規定は、固定資産課税台帳を縦覧に供したためその内容が確定した後であっても、特に市町村長において職権で価格の登録をなし、又はすでに登録された価格等の修正をなし得ることを定めたものであって、納税義務者に対し、固定資産評価審査委員会に審査の申出がなかったために確定した登録事項の修正を求める権利を認めたものではないと解すべきである。したがって、原告は、右規定を根拠として本件賦課決定の取消しを求めることはできないものといわなければならない。

4  以上によれば、本件賦課決定に原告主張の違法は存しないものというべきである。

三  本件賦課決定の税額の計算過程は前記一のとおり当事者間に争いがなく、右によれば、本件賦課決定に何ら違法な点はないものと認められる。

四  よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸達德 裁判官 小磯武男 金子順一)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例